アパレル業界の人権問題解決のために、私たちができることは何でしょうか?

目次

  1. 深刻なアパレル生産現場の人権問題
  2. 悲劇を繰り返さないための取組み
  3. 企業が変わる行動とは
  4. 人権に配慮したアパレル企業
  5. まとめ

深刻なアパレル生産現場の人権問題

2013年にバングラデシュで発生した、縫製工場が多数入居していた「ラナ・プラザ」ビル崩壊事故(死者1000人以上、負傷者2500人以上)によって、アパレル業界の人権問題が広く知られるようになりました。

崩壊したビルには、誰もが知る欧米のアパレルブランドの下請け工場が複数入居していましたが、安全管理が不十分で働いていた多くの従業員が犠牲になりました。

このビルは元々違法建築であった上に大量のミシンが設置され、その重さと振動がビルを崩壊させた一因として指摘されています。

アパレルブランド側が直接このような労働環境下での生産を指示したという事はないと思われますが、何よりも問題なのは、ファストファッション企業を含めたアパレルブランド企業が生産国の劣悪な労働環境によって安価につくられた生地や製品を求め、それによって成り立っているという現実です。

悲劇を繰り返さないための取組み

このような悲劇を繰り返さないために、2015年のG7サミット首脳宣言において「繊維及び既成衣類部門における産業全体のデュー・デリジェンス基準を広めるため、民間部門によるインプットを含む国際的な努力を歓迎する」と言及され、2017年にはOECD(経済協力開発機構)によって、「衣類・履物セクターにおける責任あるサプライチェーンのためのデュー・デリジェンス・ガイダンス」が策定されました。

デュー・デリジェンスとは、生産工程で生じる悪影響への取組方法を特定し、防止・緩和・説明を可能にするプロセスのことです。

このような世界的な流れを受け、国際的な取引においてはサプライチェーンが適正に管理されているかなどをチェックするデュー・デリジェンスの実施が求められることが多くなってきています。

一方、日本国内の流通に関しては各企業レベルでは必ずしもOECDガイダンス内容が理解され、実施されるには至っていないと経済産業省の調査で指摘されています

その要因として経済産業省は、国内アパレル 企業の主な販売先が国内市場であり、欧⽶市場に⽐べて市場から求められる機会が少ないということが挙げられる。と分析しています。

つまりは、日本の消費者からデュー・デリジェンスへの対応を求められていないため、理解・実施が進まないとされているのです。

企業が変わる行動とは

日本のアパレルメーカーのデュー・デリジェンスに対する姿勢を変化させるためには、日本に暮らし市場を形成する私たちがデュー・デリジェンスをアパレルメーカーに求めていくことが最も大切なことであることが示されています。

SDGs17の目標すべてに通じることですが、グローバル化が進んだ現代では一人一人の行動や選択が世界の誰かの貧困や人権、環境、飢餓、健康、教育に影響を与えます。

「買い物はその商品への投票行動」という人がいます。私もその通りだと思います。SDGsを達成し、世界を危機的な状態から回復するためには、正しい投票行動が必要不可欠です。

その商品は環境破壊の上に成り立った商品ではないか。その企業は直接・間接にかかわらず誰かの犠牲の上に成り立っていないか。正しい投票行動を行うために必要な情報をこのサイトではお伝えしたいと考えています。

人権に配慮したアパレル企業

人権に配慮した生産・販売を行っているアパレル企業に関する情報をお伝えいたします。

企業の選定にあたっては、政府機関・NGO・NPOなどの発表資料・質問状に対する回答姿勢・内容及び人権方針の有無並びに国際人権諸条約との整合性などにより決定させていただきました。

具体的には、

  • 世界人権宣言や国際労働機関条約を満たした人権方針を策定している
  • サプライヤーリストを公開している
  • サプライヤー工場で人権侵害救済多言語ホットラインを従業員が使える形で設置している

これらを満たした企業をご紹介しています。

パタゴニア

笑顔の少女
引用元:https://www.patagonia.jp/social-responsibility/

パタゴニアは1973年に登山家のイヴォン・シュイナードによってカリフォルニアに設立されたアウトドアブランドです。創業者のイヴォン・シュイナードはクライミングの際に岩に打ち付ける杭(ピトン)によって岩を傷つけてしまうことに心を痛め、岩場を守れるように既存のピトンを改良し事業を起こした事がパタゴニアの始まりです。

イヴォン・シュイナード の創業の思いにはビジネスよりも環境保護があり、その思いは現在も同社の中で息づいています。売上の1%を他の企業や団体が寄付しないような小規模の環境団体に寄付し、環境団体のすそ野を広げ活動を活性化することに貢献しています。

パタゴニアは創業時からの企業理念である環境保護だけでなく、サプライチェーンの人権保護にも力を入れています。人権問題への企業の責任として、フェアトレード、公正労働協会への加盟、外国移民労働者の労働条件・権利の保護、工場・農場・製造工場との連携、労働者の生活賃金の提供を掲げ積極的な取り組み姿勢を示しています。

フェアトレードとは、端的に申し上げれば「公平・公正な貿易」を行うことです。日本をはじめ先進国ではコーヒーやお茶、アパレル製品などで極端に安価な商品を見ることがあります。

これらの中には、生産国である開発途上国において正当な対価が支払われなかったり、生産効率を上げるために劣悪な労働環境で生産された製品が少なくありません。このようなサプライチェーン構造をやめ、環境に配慮した農業や生産方法、労働に対する正当な賃金や人権を守ることを目的としたのがフェアトレードです.

パタゴニアでは、フェアトレードUSAの認証基準であるフェアトレード・サーティファイド縫製ラベルの基準を満たした下請け企業で生産された製品1点ごとに賞与を支払うことで、フェアトレードな工場の拡大を図る活動を2014年より行っています。賞与は労働者に直接送られ、労働者によって構成された委員会によって自由にその使い道を決めることができます。

公正労働協会(FLA)はアパレル企業の労働慣習を監視するNPOでワシントンに本部があります。FLA加盟企業はサプライチェーン全体で職場の状態を監視し、国際労働機関基準に基づくFLA行動規範を維持するための内部システムの確立を求められます。

パタゴニアはFLA設立当初からの会員で、FLAとともに労働における諸問題の改善に取り組んできました。2019年には加盟企業にサプライヤー企業リストの公表を決議し、さらなるサプライチェーンの透明化を目指して活動しています。

パタゴニアはアメリカで2021年の最も評判の良い企業として選出されました。人権や環境への取り組みが好意的に受け入れられ、企業としてもよい循環が生まれている好例です。このような循環をさらに増していくことがまさにSDGsの目指すところです。

パタゴニアオンラインストア

GAP

GAPの製縫工場
引用元:https://www.gapinc.com/ja-jp/values/sustainability

GAPの企業HPにはギャップジャパン は平等に機会を提供する雇用主として、ハラスメントや差別のない職場を実現することを固く約束します。との宣言があり、人権に対しての企業理念を感じることができます

GAPは1969年にサンフランシスコでドン&ドリス・フィッシャー夫妻によって設立されました。創業のきっかけは自分に合うジーンズを簡単に見つけられるようにしたいというシンプル極まりない(それでアパレルショップをオープンしてしまうのもすごいですが)ものだったようですが、当時から「すべての人の平等」という原則を掲げ経営を行っています。

現在のGAPではサスティナビリティに関する、「気候と水のレジリエンス」「責任ある調達と素材選択」「従業員の地位向上と人権擁護」「循環性と廃棄物」という4項目に対して達成目標年度と達成数値に関して明確な数値を設け取り組みを行っています。それぞれの目標の進捗度合いはホームページ上でリアルタイムに確認することができます。

「従業員の地位向上と人権擁護」では、

  • 2022年までにP.A.C.E.プログラムを100万人の女性、少女に届ける
  • 2020年までに全サプライヤーで電子決済による給与支給を実現
  • 2025年までにストア新規採用者の5%をThis Way Aheadプログラムから採用

という3つのプロジェクトが進行しています。 P.A.C.E.プログラムとは、個人の能力 とキャリアの向上を目指す教育プログラム、This Way Aheadプログラムとは、若年層を対象にしたジョブトレーニングプログラムで仕事と生活がともに成功するために必要な経験とスキルをGAPが提供するとするものです。

これらの取り組みからGAPの考え方は、教育の機会を企業が提供することで個人の能力開発の機会を拡大し、誰もが能力を発揮できる社会を目指しているように感じられます。SDGs4「質の高い教育をみんなに」に通じる考え方です。

電子決済による給与支給に関しては、その意図について言及はありませんが環境負荷の低減に加えて、中間搾取などを防止する意図があるのかもしれません。

2016年にはサプライヤーリストの公開を行い、いち早くデュー・デリジェンスの姿勢を示しています。

GAPオンラインストア

アディダス

決意の握手
引用元:https://www.adidas-group.com/en/sustainability/managing-sustainability/human-rights/

アディダスは世界的なスポーツブランドとしてサスティナビリティに非常に力をいれている企業です。アディダスのサプライヤーやサービスベンダーはアディダスグループの策定した労働安全衛生や雇用に関するガイドラインを遵守することが義務付けられています。

労働安全衛生に関するガイドラインでは、工場管理のガイドラインに盛り込むべき内容からか化学薬品の管理、トイレ・食堂・厨房設備、従業員が負傷した際の対応方法など全22項目にわたって広範囲かつ詳細に示されています。

それぞれの項目では、写真やイラストを使いながら具体的な対応方法が中国語、英語、日本語、韓国語、スペイン語、タイ語、ベトナム語に翻訳されており、世界中のアディダスサプライヤーでガイドラインが遵守される配慮がなされています。

雇用に関するガイドラインでは、根拠となる国際法を示しつつ各国法の理解・遵守も求めています。また、遵守すべきガイドラインとして、一般原則、強制労働、児童労働、差別、賃金及び手当、労働時間、結社および団体交渉の自由、処罰を示し、それぞれに「よくある不順守の例」と「解決法」を掲載しサプライヤーがガイドラインに取り組みやすい工夫が行われています。

これら2つのアディダスのガイドラインに共通して言えることは、「具体的実施方法」が記載されている点です。ただガイドラインの遵守を義務付けるだけでなく、サプライヤーがそれを守ることができるよう配慮されたガイドラインとなっていて、サプライヤーやサービスベンダーの事情も考慮するアディダスの企業姿勢が示されています。

アディダスは、ガイドラインの他にも2014年に「第三者による苦情申し立て処理プロセス」を設置し、専門の第三者機関による苦情処理チャネルを設けました。この苦情処理チャネルは、サプライチェーン等の労働者だけでなく直接影響を受けている個人や組織が申し立てを行うことができ、それぞれの使用する言語で申し立てることが可能です。また、年間苦情件数と対応状況はホームページ上で公開されています。

このような取り組みが評価されて、企業の人権への取組みに関する国際的なイニシアティブである「企業人権ベンチマーク(CHRB)」において、2018年、2019年の2年連続最高スコアを獲得しています。

アディダスオンラインストア

まとめ

今回は、アパレル業界の人権問題について見ていきました。

アパレル業界には世界的企業が多く存在し、企画・販売と製造の分離が世界レベルで進んでいるため、開発途上国を中心とした製造の現場で何が起こっているのか非常に見えにくい構造になっています。

従って資金力と販売力をもつ世界的アパレル企業がデュー・デリジェンスに留意した統治を実施しなければ、人権侵害が容易に起こってしまう土壌となってしまっています。

今回ご紹介するアパレル企業の選定基準とさせていただいて3要素をすべて満たす企業は、前述の3社のみでした。残念ながら日本のアパレル企業はこれらの条件を満たすことができていません。

ただユニクロを展開するファーストリテイリング社に関しては、人権方針の策定と人権救済多言語ホットラインの設置は行われており、サプライヤーリストの公開のみが行われておりませんでした。この点が昨今報道されているウィグル自治区での調達に関して同社が疑念を持たれている所以かと思われます。(ファーストリテイリング社はウィグル自治区でのコットンなどの調達に関し、「強制労働等が行われていないことを確認している」としています。)

ファーストリテイリング社には、世界第3位の売上を誇るアパレル企業としてサプライヤーリストの公開をし、人権問題に真剣に取り組む企業として他の日本のアパレル企業をけん引してもらいたところです。

そういった土壌を日本市場の中に作っていくためにも、私たち日本に住む人々が服を買う時にその服はどのような製造過程を経て作られたのか情報を求めていくこと、具体的にはこれらの情報を開示している企業、そしてその内容が少なくとも今回上げさせていただいた3つの要素を満たしている企業を選ぶことによってアパレル企業の姿勢を変えていくことができるのだと考えています。

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Caretaker

 
管理人の顔のイラスト SDGs検定合格者証明ロゴ

 Takahiro
 Fujii

気候変動や海洋プラスチック問題に危機感を感じSDGsを知りました。

この度晴れてSDGs検定に合格できたので、このサイトを立ち上げる事といたしました。本業はシステムエンジニアです。

SDGsの内容や個人で取り組めるSDGSについて幅広くお伝えしていきたいと思っています。

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