気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)がイギリスのグラスゴーで開催されました。今回はCOP26にあわせて、日本の現在の再エネへの取組み状況に関してみていきたいと思います。
日本はCOP26において、2回連続となる化石賞を受賞しました。化石賞は環境NGOによって選定され、地球温暖化対策に消極的もしくは逆行すると判断された国に送られます。
日本はエコバッグを使用しゴミも細かく分別しているのに、なぜこんな不名誉な賞を受賞する事になったのでしょうか?
目次
岸田総理がCOP26で発表した日本の方針
環境NGOのCANインターナショナルは、COP26において岸田総理が示した日本の気候変動対策が、産業革命前に比べて地球の気温上昇を1.5度以内に抑えるというパリ協定の目標達成を「危うくする」として日本に化石賞を贈りました。
岸田総理のスピーチは何が問題とされたのでしょうか。スピーチの内容を見ていきたいと思います。
始めに、この会議を主催する、私の友人、ボリスのリーダーシップを称えます。
出典:首相官邸ホームページ「COP26世界リーダーズ・サミット 岸田総理スピーチ」(https://www.kantei.go.jp/jp/100_kishida/statement/2021/1102cop26.html)
気候変動という人類共通の課題に、日本は総力を挙げて取り組んでまいります。その決意を皆さんに伝えるために、このグラスゴーの地に駆けつけてまいりました。
パリ協定の採択から6年。当時、ローラン・ファビウス議長の下、決意を新たにした、あの瞬間を、我々は忘れてはなりません。「どうしても、これをフミオに渡したい」そう言って、友人であるローランがくれた木槌(きづち)を、私は、気候変動問題に真摯に向き合う覚悟の証として、今でも大切に持っています。
目標の達成に向け、この10年が勝負です。高い野心を持って、共に全力を尽くしていこうではありませんか。
「2050年カーボンニュートラル」。日本は、これを、新たに策定した長期戦略の下、実現してまいります。2030年度に、温室効果ガスを、2013年度比で46パーセント削減することを目指し、さらに、50パーセントの高みに向け挑戦を続けていくことをお約束いたします。
議長、日本は、アジアを中心に、再エネを最大限導入しながら、クリーンエネルギーへの移行を推進し、脱炭素社会を創り上げます。
アジアにおける再エネ導入は、太陽光が主体となることが多く、周波数の安定管理のため、既存の火力発電をゼロエミッション化し、活用することも必要です。日本は、「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ」を通じ、化石火力を、アンモニア、水素などのゼロエミ火力に転換するため、1億ドル規模の先導的な事業を展開します。先進国全体で年間1,000億ドルの資金目標の不足分を率先して補うべく、日本は、6月に表明した、向こう5年間で、官民合わせて600億ドル規模の支援に加え、アジア開発銀行などと協力し、アジアなどの脱炭素化支援のための革新的な資金協力の枠組みの立ち上げなどに貢献し、新たに5年間で、最大100億ドルの追加支援を行う用意があることを表明いたします。
ボリスと協力し、先進各国も、日本に続くよう呼びかけてまいります。
これらの支援により、世界の経済成長のエンジンであるアジア全体のゼロエミッション化を力強く推進してまいります。
日本は、世界の必需品である自動車のカーボンニュートラルの実現に向け、あらゆる技術の選択肢を追及してまいります。
2兆円のグリーンイノベーション基金を活用し、電気自動車普及の鍵を握る次世代電池・モーターや水素、合成燃料の開発を進めます。
イノベーションの成果をアジアに普及し、世界をリードしてまいります。
日本は、グローバル・メタン・プレッジにも参加いたします。脱炭素への移行を進めていく中で、足下のエネルギー価格の上昇といった問題について、我々リーダーが対応を議論していくことが必要です。
さらに、日本は、防災など、気候変動に適応するための支援を倍増し、約148億ドルの支援を行います。先端技術を活用し、国際機関と連携しながら、世界の森林保全のため、約2.4億ドルの資金支援を行うことを表明いたします。
我々が気候変動問題に向き合う時、誰一人取り残されることがあってはなりません。日本は、対策に全力で取り組み、人類の未来に貢献してまいります。ありがとうございました。
スピーチの中で岸田総理は、2013年比46%の温室効果ガスの削減を掲げ、100億ドルの追加支援を表明しました。一見するとなぜ化石賞を受賞する事になったのかよくわかりません。ポイントは
「化石火力を、アンモニア、水素などのゼロエミ火力に転換」の部分です。
岸田総理のスピーチでは火力発電所をゼロエミッション化(廃棄物を出さない)しアジアの再エネ導入を推進していくと述べられています。具体的には、既存の火力発電所を基本的に使い続け燃焼時にCO2を排出しないアンモニアや水素を燃料とすることでゼロエミッション化する、更にその技術をアジアの国々にも展開していきたいと考えている。という事になります。
一見これらの政策は、アジアの事も考えた素晴らしいもののように聞こえます。しかし、最大の問題はアンモニアは燃焼時にはCO2は出しませんがNOx(窒素酸化物)は出し、アンモニアも水素も生成するときにはCO2が出る。という点です。岸田総理のスピーチではこの部分がまるっと抜け落ちています。
水素は常温では気体となるため体積が大きくなり、運搬や貯蔵に不向きです。運搬や貯蔵に適した液化するためにはマイナス200度以下にする必要があるため大量のエネルギーを必要とし、爆発の危険も高く扱いが難しいのも難点です。
一方、アンモニアを火力発電の燃料とする方法もあります。アンモニアは水素に比べて圧倒的に燃えにくいですが、様々な技術革新により現在ではアンモニアを持続的に燃焼させることがある程度可能になっています。この技術を使って火力発電を行おうというのが、アンモニア発電です。
少し前置きが長くなりましたが、水素もアンモニアも自然界から収集できるものではなく人間の手で生成する必要があります。生成する方法には水を電気分解する方法と、石油やガスから作る方法の2通りのやり方があります。

水の電気分解で水素・アンモニアを生成する方法ではその名の通り電気が必要になります。この電気がCO2などが排出される方法で作られていたのでは、意味がありません。排出のタイミングが上流工程に移っただけで、再エネ発電の為にCO2を排出するという何がしたいのか意味不明な工程を経る事になります。したがって、水の電気分解で水素・アンモニアを生成するには再エネ発電由来の電力の確保が不可欠ですが、費用が現時点では化石燃料を分離する方法より高額であるという問題点があります。ちなみに、この方法で作られたアンモニアはグリーンアンモニアと呼ばれています。
一方、石油やガスから分離して水素・アンモニアを生成する場合は、まずCO2と水素に分離しなければなりませんので確実にCO2が排出されます。排出されたCO2をどうするかと言いますと、いくつか方法はありますが日本政府はCCSと呼ばれる技術を、大量にCO2を処理できるとして力を入れて開発しています。このように、CO2を大気中に放出しない方法で化石燃料から生成されたアンモニアをブルーアンモニアと言います。
ブルーアンモニアの生成には排出されるCO2を処理する仕組みが不可欠で日本政府はCCSに力を入れていますが、CCSはスタンフォード大学の研究チームによる報告では「地震を引き起こす可能性が高い」とされています。ただでさえ地震が多い日本において、この技術を選択する事は国民としては恐怖を覚えます。
アンモニア・水素発電には必要ですので当然と言えば当然なのですが、政府はこの技術を使う事を前提に進めています。経産省は2016年から2019年まで苫小牧で実証試験を行っています。実証実験を報告する経産省のHPでは実験は成功したとされ「実現間近」と報告されています。
しかし、よく読んでみると「活断層は避ける」と書いてあります。しかし、国内にはまだまだ知られていない活断層は大量にあり、判明していない活断層を避ける事ができるとは思えません。またスタンフォード大の報告にも触れられていません。

このように、岸田総理がスピーチでゼロエミッション火力発電の燃料としている、水素もアンモニアもクリアすべき課題が多くあり、CCSを使った火力発電では、地震という温暖化とは別の自然災害を誘発してしまう危険性があります。一方、電気分解で生成されたアンモニアに関しては、再エネ発電由来の電力を使って生成する事ができれば「CO2削減」だけはできますが、いずれにせよ燃焼時にNOx(窒素酸化物)を排出しするという問題は残ったままです。NOxはCO2以上の強力な温暖化ガスです。
経済産業省はNOx発生量を抑えた火力発電ボイラの開発にも力を入れていますが、そこまでして火力発電にこだわる理由は何なんだろうと考えてしまします。
CANインターナショナルは日本の化石賞受賞理由について、「未成熟でコストが高く化石燃料の採掘を継続させる技術を妄信している。」としました。水素やアンモニア発電の全体像を見てみると、あながち的外れな受賞理由ではないという事ができるかもしれません。
私たちはこの道を進んでいいのか?
COP26の岸田総理のスピーチからは、日本は既存の火力発電所を活用しアンモニア・水素による発電を行う事で脱炭素社会を目指す。という方針が見て取れますが、なぜ高いハードルがありリスクも伴うこの方針を日本は選んだのでしょうか。
明確な事は不明ですが、考えられる理由としては次のような事があげられます。
- 日本の強みである火力発電技術を活かせる
- 太陽光や風力を大規模に行うには用地の確保が困難
- 太陽光や風力発電の技術では、既に世界から遅れているため今更投資してもうまみが無い
- 既に火力発電設備を持っている国には推進しやすい
- 安定電力として期待できる
などが考えられます。火力発電に関しては東日本大震災以降、ほとんどを火力発電に切り替えた事もあり日本は高い技術を誇ります。また、アンモニアや水素を用いての発電であれば既存の火力発電所を少ない改修のみで使用できるため、東南アジア諸国にも推進しやすく影響力を持つことができますし経済効果も期待できます。太陽光や風力発電の割合が高まっているヨーロッパが電力不足に陥り、安定電力として疑問視され始めていることも関係しているかもしれません。
一方、デメリットを考えた場合には、
- ブルーアンモニアの生成にはCCSを使う
- グリーンアンモニア実現には再エネ電源の確保が必要
- 電源の問題をクリアしてもランニングコストで太陽光や風力に及ばない
- アンモニアは、酸性雨の原因であり温室効果ガスでもあるNOx(窒素酸化物)を排出する
となるかと思います。
まず日本に住む者として怖いのは、CCSが一般にはほとんど知られることなく「実現間近」の段階まで実証実験が進められている事です。スタンフォード大の研究報告を待つまでもなく「活断層は避けるので問題ない」とする姿勢に、少なからず不安を覚えます。また、生成時のCO2発生やアンモニア燃焼時のNOx発生など水素・アンモニア発電の全体像が示されていない点に関しても不信感を抱かざるを得ません。
更に、長期的なコストを考えた場合、そもそも「燃料」というものが不要な太陽光や風力発電にランニングコストで優位に立てるのかという問題があります。太陽光や風力発電は既に最も安価な電力として世界では常識になりつつあります。設備の構造も単純ですし、グリーンアンモニアを使っての火力発電が実現し、NOx排出が無い火力発電ができたとしても、コスト面で優位にたてる根拠を見つける事は困難です。
電気のコストが高ければ、全産業のコストも高くなります。結果として日本企業は競争力を失うか、更に海外に出ていくしかなくなるという事が想定されます。また、コストの高い電力との認識が広まれば、海外に販売していく事も難しく、そうなってから他の発電技術に注力しても、技術格差は拡大しておりもはやイニシアティブを握る事は難しいでしょう。
こうして見てみると、アンモニア・水素発電にはメリット・デメリットがあり、それならば強みを持つ火力発電技術を使う方向に舵を切る、という判断は分からなくはありません。
しかしながら、学術分野から地震という自然災害を誘発する危険性を指摘されている技術を、あまり説明もなく推進する事は日本に住む者としては怖いです。更に収益性にしても長期的には不利になる可能性がかなり高く、本当に未来の日本の成長を考えているのか疑問です。
政府には「既存火力発電所とその関連産業は絶対守る」という思いと、「今が良ければいい」「CCSやNOx排出の事は隠し通せばよい」という考えがあるのかもしれません。
日本の再エネ発電のポテンシャル
アンモニアや水素を用いた火力発電には懸念材料がいくつかあり、現時点では脱炭素につながるかどうかは不透明です。更に災害を誘発する危険性も拭いきれません。では、これらを使わずに脱炭素社会を実現する事は可能なのでしょうか?
環境省の試算では、日本の再生可能エネルギーのポテンシャルは現在の発電量の6倍以上あるとされています。

しかし、この試算には最近ようやく広がりを見せ始めたソーラーシェアリング(農地に支柱を立て太陽光発電を設置する発電方法。作業性の低下や日照を好む作物には向かないなどの問題がある)や昨年経産省が事業継続を断念した浮体式の洋上風力発電がかなりの割合で含まれており、実現可能性に関してはまだまだ予断を許しません。
一方で経産省がエネルギー基本計画で試算する2030年度の電源構成では、再エネ発電は36~38%とし、原発の割合を現在の6%から20%~22%に高め化石燃料発電以外で59%の電力を賄うとしています。再エネ発電には1%の水素・アンモニア発電が含まれます。2050年に向けては化石燃料発電を水素・アンモニア発電に切り替え脱炭素を達成するというのが青写真と思われます。

環境省の試算と経産省の計画ではかなり隔たりがありますが、経産省の試算においても再エネ発電割合を増加させることは必要とされており、洋上風力の導入拡大は陸上風力の適地が少ない日本では不可欠であると位置づけ、導入を促進する動きも経産省内にはあります。
更に火山国家である日本には地熱発電という選択肢もあります。地熱発電は、再エネ発電でありながら安定供給が可能であるとして近年注目を集めています。古くからある発電方法ですが、低温でもタービンを回せる技術や温泉地などに悪影響を与えない発電方法も開発され始めています。日本の地熱発電のポテンシャルはアメリカやインドネシアに次いで世界3位とされ、大きな可能性を秘めています。
日本政府には、既存の火力発電を守る事ばかりに注力するのではなく、地熱発電など日本としては珍しく資源に恵まれた新たな再エネ発電に注力し、8,000兆円とも言われる温暖化対策市場で一定の存在感を示し、パリ協定及びSDGsの達成に貢献してもらいたいと願うばかりです。
まとめ
アンモニアや水素を使った火力発電には様々な懸念材料があり、推進には安全性の確保は大前提ですが、原発とともに様々な利権が絡み合い、既存の大手電力会社や関わる企業を守りたいとする意図をなんとなく感じてしまいます。
一方で環境省が示す通り火力発電や原発に頼らなくても、脱炭素を実現できる可能性はあり、経産省の中にも再エネを推進する動きがあるようにも見受けられます。
どのような未来とするかは、結局は私達の選択にかかっています。家庭で使う電気を選べる現在は、使う電力によって未来を選んでいると言えるかもしれません。
最後までお読みいただき誠にありがとうございました。次回はSDGsなふるさと納税「フルーツ編」をお送りする予定です。
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参考サイト
独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構[JOGMEC]
https://geothermal.jogmec.go.jp/ (参照 2021-11-10)