COP26グラスゴーで岸田総理は、パリ協定の達成に向け、アンモニア・水素などを使った火力発電を推進していく事を表明しました。アンモニア・水素火力発電の有効性と問題点を詳細に見ていきます。

COP26グラスゴーで岸田総理は、パリ協定の達成に向け、アンモニア・水素などを使った火力発電を推進していく事を表明しました。日本があえてアンモニア・水素火力発電に力を入れる理由は何なのか。

その背景と超えるべきハードル、そして環境面・経済面の有効性について、第6次エネルギー基本計画を始めとした政府資料と各国のエネルギー政策から詳細に確認していきます。

目次

  1. 世界の火力発電の動向
  2. 改めてCOP26のスピーチを考える
  3. アンモニアと水素の調達について
  4. アンモニアのN2Oと水素の貯蔵・輸送について
  5. アンモニア・水素火力発電は本当にゼロエミ発電となるのか
  6. 結論
  7. まとめ

世界の火力発電の動向

日本はCOP26で化石燃料発電をアンモニア・水素火力発電に変換し、ゼロエミッション発電を実現すると宣言しました。これによって化石賞を受賞し、ある意味その方向性を否定されたわけですが、今後の世界の電力構成はどのように進んでいくのでしょうか。IEAの発表から見ていきたいと思います。

世界エネルギー見通し(World Energy Outlook 以下WEO)を発表している国際エネルギー機関(IEA)は、10月13日に2021年のリポートを発表しました。今回のWEOはCOP26にあわせて発表され、COP26のガイドブック的な役割も果たしています。

WEO2021が各国の政策計画などをもとに試算した予測によると、2050年までの世界全体の化石燃料に対するエネルギー需要は、天然ガスは増加し続け、2050年には2020年の約1.3倍に増加します。石油需要は現在よりは増加しますが、2040年あたりからほぼ横ばい、石炭は今後数年は需要が高まりますが2025年ころから減少し、2050年には現在の75%ほどに低下するとみられています。全体としては燃焼効率の良い天然ガスの割合が増加し石炭の割合が減るという試算となっており、天然ガス・石油・石炭を合わせた化石燃料全体の需要は若干下がりますがほぼ現在と同水準とみてよいと思われます。

今後の石炭火力発電所の建設計画では、2021年から2030年の間に建設される石炭火力発電所の発電量は300ギガワット以上とされており、大型火力発電所(橘湾火力発電所:105万キロワット)に換算すると300基程度が新たに建設される計画となっています。

世界の石炭火力発電の増加予想
WEO2021「石炭火力発電の増加」
引用元:IEA, Coal-fire capacity addition in the Announced Pledges Scenario, 1991-2050, IEA, Paris https://www.iea.org/data-and-statistics/charts/coal-fire-capacity-addition-in-the-announced-pledges-scenario-1991-2050

新たに建設される火力発電所は開発途上国に集中しています。環境省の「石炭火力発電輸出ファクト集2020」によると、東南アジアでは2040年までに石炭火力約90ギガワット、天然ガス火力約100ギガワットの追加が計画されており、インドでは2026年までに石炭火力94ギガワット(退役分を差し引くと46ギガワットの増加)の建設が計画されています。

2040年東南アジア電力構成予測
東南アジア電力構成予想_環境省
引用元:https://www.env.go.jp/earth/%E7%9F%B3%E7%82%AD%E7%81%AB%E5%8A%9B%E7%99%BA%E9%9B%BB%E8%BC%B8%E5%87%BA%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%AF%E3%83%88%E9%9B%862020.pdf
2026年インド電力構成予測
インドの電力構成予想 環境省
引用元:https://www.env.go.jp/earth/%E7%9F%B3%E7%82%AD%E7%81%AB%E5%8A%9B%E7%99%BA%E9%9B%BB%E8%BC%B8%E5%87%BA%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%AF%E3%83%88%E9%9B%862020.pdf

東南アジア・インドとも再エネ発電の割合も大幅に増加していますが、成長著しい両地域では需要増にそれだけは追いつかず、火力発電も大幅に増加させる計画となっていると思われます。

改めてCOP26のスピーチを考える

各機関の予測から少なくとも直近では火力発電所は増加し、特にアジアにおいてその傾向が顕著であることが分かります。

この事を念頭にCOP26での岸田総理のスピーチを改めて見返すと、

議長、日本は、アジアを中心に、再エネを最大限導入しながら、クリーンエネルギーへの移行を推進し、脱炭素社会を創り上げます。

 アジアにおける再エネ導入は、太陽光が主体となることが多く、周波数の安定管理のため、既存の火力発電をゼロエミッション化し、活用することも必要です。日本は、「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ」を通じ、化石火力を、アンモニア、水素などのゼロエミ火力に転換するため、1億ドル規模の先導的な事業を展開します。

首相官邸ホームページ https://www.kantei.go.jp/jp/100_kishida/statement/2021/1102cop26.html

となっています。アンモニア・水素発電によってアジアの火力発電所をゼロエミ化するという事を目標に掲げている事は間違いなさそうです。前述の通り、今後もアジアでは石炭・天然ガスの火力発電所が大量に建設される計画ですから、日本がこの分野の技術を磨く事は意味のある事と考えられます。

政府の考えは、アジアでは今後も大量に化石燃料火力発電所が建設される予定である事を見越して、建設後にも比較的簡単にゼロエミ化できるアンモニア・水素発電の技術を獲得する事によって、アジアにおけるゼロエミ化に貢献し、該当国への影響力を高めつつ、新たな産業も創設するというものではないかと思われます。1粒で2度も3度もおいしい非常に良い戦略のように思えます。

しかし、本当にそんなうまい話があるのでしょうか?そもそも火力発電所は本当にゼロエミ化できるのか。アンモニア・水素火力発電を深く見ていきたいと思います。

アンモニアと水素の調達について

そもそもゼロエミッション(ゼロエミ)とは、排出(エミッション)をゼロにするという意味で1990年代に国連大学によって提唱されました。COP26では、廃棄物を自然界に出さないとする文脈で使われています。

アンモニア・水素発電では、火力発電のタービンを回すための燃料を石炭や天然ガスに変えてアンモニア・水素とし、アンモニアと水素は燃焼時にCO2を出さないため脱炭素化できるとされています。しかし、アンモニアや水素は自然界から調達できるものではなく、化学反応によって作り出さなければなりません。生成方法には天然ガスなどから作る方法と水を電気分解して作る方法がありますが、どちらも作り方によってはCO2を排出してしまいます。

1.天然ガス等から分離してアンモニア・水素を作る場合の問題点

  • 高温の水蒸気と反応させ、天然ガスを水素とCO2に分離する事で水素を取り出す。必ずCO2が排出される
  • アンモニアは水素に窒素を高温(400~650度)高圧(200~400気圧)で反応させて生成するので大きなエネルギーを必要とする。これがゼロエミ由来である必要がある

2.水を電気分離してアンモニア・水素を作る場合の問題点

  • 電気分解に必要な電気がゼロエミ由来である必要がる
  • アンモニアの生成は天然ガス分離と同じ

このように、どちらの方法でも生成にはゼロエミ由来のエネルギーが必要で、「1.天然ガス等から分離してアンモニア・水素を作る場合」に限っては発生するCO2を大気中に出さずに処理する必要があります。これらの問題に対して日本政府はどのように対応しようとしているのか、第6次エネルギー基本計画を確認してみたいと思います。

ゼロエミ由来のエネルギー獲得には、結局再エネ発電電力が必要という事になりますが、エネルギー基本計画には「余剰の再生可能エネルギー電力等から水素・アンモニアを製造することで・・・」(P37)との記述が1か所だけあります。しかし、2030年目標で22%程度しか見込んでいない再エネ発電に”余剰”があるとは思えません。近年は太陽光発電が一部地域に集中して建設された事で天候によっては出力制御などが起こる事はありますが、この事を”余剰の再生可能エネルギー”と言っているのであれば、電力が大幅に不足しています。

2030年エネルギー需給
2030年エネルギー需給
引用元:https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/20211022_03.pdf

アンモニア・水素の調達に関して、恐らく日本政府は当面の間輸入で賄う事を念頭に置いています。エネルギー基本計画には「大量かつ安定・安価な水素・燃料アンモニア等の輸入を可能とする・・」(P32、P45、P119)という記述が3回登場し、「海外からの輸入が想定されている水素等の脱炭素燃料について、・・」(P118)という記述が1回登場します。コスト面やゼロエミ電源が不足している事など輸入する理由は様々考えられますが、水から作る事のできるアンモニア・水素は是非国内製造を促進してもらいたいものです。

一方CO2処理の問題に関しては、CCSやCCUSという技術を使って解決しようとしていると見られ、計56回(CCS:44・CCUS:12)この技術の活用について言及されています。

CCSとは、CO2だけを他の気体から分離して地中に埋める技術です。この技術は既に経済産業省によって実証試験が行われており、実現間近とされています。しかし、CCSはスタンフォード大学のチームによって地震を引き起こす可能性が指摘されており、日本国内での実施はリスクがあると考えざるを得ません。

CCUSもCCSと同じくCO2だけを取り出しますが、CCUSは地中に埋めるのではなく資源として活用する考え方です。シェールガス掘削などへの利用や、メタンやエタノールをを生成する原料として使用するといった事が考えられています。人工光合成についても研究が進められています。しかしこれらの技術を実施するには、またしてもゼロエミエネルギーが必要になり、CO2の漏洩リスクも指摘されています。また、CCSに比べて工程が複雑であるという問題点もあります。

CO2を処理するこれらの2つの技術の内、CCSの方は44回もエネルギー基本計画で言及があり、政府としてはこちらの技術を推進しようとしている事が見て取れます。

アンモニア・水素の調達について、エネルギー基本計画から考えられる日本政府の方針をまとめますと、

  • 自国での生成も促進する姿勢がみられるが、当面は輸入に頼る論調が強い
  • 自国で生産する場合は、再エネ電力の確保は未知数で対策も不十分
  • 現状で自国生産した場合、CCSかCCUS技術を使わなければ脱炭素は実現できない

となり、輸入による調達及び国内製造ではCSS技術の活用がメインとなる可能性が高いと考えられます。

アンモニアのN2Oと水素の貯蔵・輸送について

地球の気温上昇を産業革命から1.5度以内に抑えるとしたパリ協定を実現するためには、CO2だけでなくそれ以外の温室効果ガスの排出もなくさなければなりません。ゼロエミッション火力発電を目指す日本としては避けては通れない問題です。

しかし、アンモニアに関しては燃焼時にN2O(亜鉛化窒素)というCO2の約310倍の温室効果を持つ物質を排出します。CO2の310倍ですから、何も対策をせずにアンモニアを燃料として火力発電を行えばパリ協定の達成はおろか、あっという間に両極の氷は溶けてしまうでしょう。

エネルギー基本計画ではこの点について、「(2030年までに)NOxを抑制した混燃バーナーの既存発電所等への実装を目指す」(P77)「NOx排出量を抑制した高混焼バーナー等、専焼化も見据えた技術開発を行う」(P112)と2か所の記述があります。NOxとはN2Oを含めた窒素酸化物の事です。いずれも「抑制」にとどまっており、除去には至っていない事に加え、高混焼バーナーに関しては技術開発の段階です。更に言えばどのくらい抑制できるのか具体的な数値は示されていません。CO2の310倍の温室効果ガスを出してしまってはアンモニア火力発電はゼロエミという事はできません。ゼロエミ火力とするためには、「抑制」ではなく「除去」しなくてはなりませんが、その道筋が見えているのか、エネルギー基本計画を見る限り疑問です。

一方水素火力発電については、燃焼時には水しか出ませんのでゼロエミッションと言えます。しかし、水素にも問題はあります。それは、貯蔵・輸送が難しい事です。

水素は非常に軽い気体なので、1気圧で必要な量を貯蔵するには広大な体積が必要となり実用に耐えません。そのため、高圧で圧縮したり、マイナス253度まで冷却したりする必要があります。より管理のしやすいアンモニアやメチルシクロヘキサンに変換して貯蔵するという方法もあります。高圧での保存は現在もっとも一般的ですが数百気圧で保存する必要があり貯蔵措置も大掛かりなものになります。液化での保存ではマイナス253度を保つため、巨大な魔法瓶構造のタンクを使います。液化したあとの貯蔵タンクへの運搬や輸送タンクから貯蔵タンクへの入れ替える際にも温度が上昇しないよう神経を使い、決して扱いやすい状態ではありません。

一方、アンモニアやメチルシクロヘキサン/トルエンへ変換して貯蔵する方法は比較的管理は簡単ですが、アンモニアは金属を腐食させるのでタンク素材に注意が必要で、毒性が高い点が問題です。現在注目を集めているのはメチルシクロヘキサン(MCH)に変換する方法です。MCHは水素にトルエンを付加して作る液体で、水素からの変換や水素に戻すことが比較的簡単にでき、性質が石油に似ているため既存のインフラを使用する事ができます。気体の状態の水素に比べると体積当たりの水素量は500倍以上になります。

また、MCHを水素として使用するために取り出されたトルエンは再びMCH生成プラントに運ばれ水素をMCHに変換する事に使用されます。トルエンが無駄にならない構造となっています。

水素のメチルシクロヘキサン/トルエンへの変換イメージ
有機ケミカルハイドライド(OCH)法
引用元:https://www.chiyodacorp.com/jp/service/spera-hydrogen/innovations/

千代田化工建設はMCHの脱水素触媒の開発に成功し、水素を貯蔵・輸送するためのMCHをSPERA水素®として商標登録しています。

MCHを用いての水素の貯蔵・輸送に関して、どの程度環境負荷があるのかについては現状では明確ではありませんが、トルエンの付与や除去に使われるエネルギーはゼロエミ電源由来である必要があります。SPERA水素と水素火力発電が運用に乗ってくれば、その電力を使ってトルエン付与や除去を行えますが、どのくらいのエネルギーが必要なのか、また実現にどのくらい時間がかかるのかが争点となってきます。

アンモニア・水素火力発電は本当にゼロエミ発電となるのか

これまで見てきた内容から、環境面・経済面からアンモニア・水素火力発電の有効性についてまとめてみたいと思います。

環境面

環境面からアンモニア・水素火力発電を考えた場合、アンモニア火力発電は前述の通り燃焼時に N2O(亜鉛化窒素) を排出し、政府資料を読む限り完全にゼロにできる方法は確立されていないと思われます。(2021年1月29日付の資源エネルギー庁のHP記事”アンモニアが“燃料”になる?!(後編)~カーボンフリーのアンモニア火力発電”でも「アンモニアを20%混焼しても、排気中のNOx値を石炭だけを燃やした専焼の場合と同じ程度に保てることが示されています。」と記載されており、アンモニアも石炭と同量のNOxを排出している事が伺われます)N2Oは(NOxはN2Oを含む窒素酸化物を表す)非常に強い温室効果を持つ物質ですから、完全に除去できない限りゼロエミッションを達成したという事はできません。従って、アンモニア火力発電は現時点ではゼロエミ火力発電とはなり得ないという結論となります。

一方、水素火力発電はどうでしょうか。水素火力発電にはその生成工程から含めてもゼロエミッション電力となる可能性があり、すべての技術が実用化されている訳ではありませんがその道筋は見えています。

水素火力発電がゼロエミッションとなる場合は、以下のような工程を経たケースと考えられます。

  1. 生成は水からの電気分解でゼロエミ電力を使用して行う
  2. 貯蔵・輸送は高圧・低温・MCHなどどれを使っても良いがプラントの建設、貯蔵・輸送のエネルギーはゼロエミッション電力で行う。取扱いの容易性によるコストダウンを見込むには、MCHが有効と考えられる。
  3. 100%水素のみで火力発電を行う

このように、生成・貯蔵・輸送そして発電で温暖化ガスを排出しない工程を経る事ができれば、水素火力発電はゼロエミ火力発電として成立します。なお、CCS/CCUSを使用しての水素生成は懸念材料が多い為除外いたしました。

しかし、言うのは簡単ですが非常に高いハードルです。日本の場合は水素調達を輸入によって賄おうとしていますから、2.の部分が大きなハードルとなります。MCHで行った場合、輸出元のトルエン付与プラントと日本側のトルエン除去プラントの双方がゼロエミ電力によって運営されていなければならず、そもそも海運によってMCHは運ばれますので船のエンジンからCO2が発生します。この課題をクリアするためにはゼロエミエネルギーで動く船を作らなければなりません。

日本企業はこの問題の解決に既に動いています。商船三井と三井商船ドライバルク、ジャパンエンジンの3社は2021年11月9日、ジャパンエンジンが世界に先駆けて開発した船舶用水素燃料エンジンの船舶に搭載しての実証実験での協力に合意しました。非常に明るいニュースですが、検証完了目標は2026年とのことで実用はその後となります。

この技術が確立するまでに真のゼロエミ水素発電を達成しようとするなら、ほぼ輸送が発生しないような近隣でゼロエミ電力による水素生成を行うしかありません。しかしながら、日本国内で必要な量の水素をゼロエミ電力を使って作る事は、前述のエネルギー基本計画にもあったように現実的ではありません。かといって船舶用水素エンジンができるまで待っていたのでは、パリ協定は達成できません。がんじがらめの状態です。

日本が水素火力発電を数年内に開始(2021年から実機実証開始)するとした場合の現実解は、

船舶のCO2排出は石炭・天然ガスを使っての火力発電でも発生しますのでCO2排出量は変わらないとして捉え、国内で調達できない水素は輸入し、水素火力発電を行う事によって石炭・天然ガスでの発電時に出ていたい温室効果ガスを無くすことで地球温暖化対策として有効であるとし、将来的には船舶の水素エンジン化によって完全なゼロエミッションを達成する。

というものになるかと思います。

この前提に立ったうえで、日本が行わなければならないTODOとしては、

  • 太陽光・風力・地熱などのゼロエミ発電を更に増やし、水素の生成やMCH運用の為の電力を確保する事
  • 輸出国の水素生成方法・プラント(MCH運用の場合はMCHプラント含む)を厳密に確認できる国際ルールを構築する事

となると考えられます。この2点がクリアできば水素火力発電はパリ条約達成に寄与できる発電方法になり得ると考えられます。水素生成に関する国際ルールの構築は、ある程度輸入に頼るのであれば非常に重要なタスクとなります。

経済面

経済的な側面から水素火力発電を考えた場合、技術の販売という面において、今後10年間で少なく見積もってもアジアだけで100ギガワット以上(大型火力発電所100基以上)世界全体では300ギガワット以上の火力発電所の新規建設を見込むことができ、既存の火力発電所も世界中にありますので市場としては十分です。

更に水素火力発電技術に関しては、日本は世界をリードしており競争力があります。MCH技術や水素船舶エンジンも併せてニーズが高まる可能性があり、新たな産業として確立できる可能性を秘めていると言えるでしょう。

一方、電力価格という面では確実に太陽光や風力発電に劣ります。太陽光や風力発電は発電タービンを回すための燃料を必要としません。これに対して水素火力発電はこれまで見てきましたように、生成し、貯蔵し、輸送し、MCHで運用する場合はトルエン付与と除去も行わなければなりません。更にこれらを全てゼロエミ由来のエネルギーで行う必要があります。太陽光や風力は140年の歴史がある火力発電よりも既に発電コストが低くなっています。これから始まる水素火力発電は、現時点では火力発電の7倍のコストが必要とされていますから、太陽光や風力よりも電気代が高くなることは間違いないでしょう。

これはあらゆる企業の生産性に影響してきます。太陽光や風力を主体とする国と7倍の電気コストの差があっては、競争力の低下は否めません。今後水素火力発電が本格稼働すればコストダウンが図られる事は間違いありませんが、既にスケールメリットとインフラの確立によってコストダウンが図られている化石火力発電よりも太陽光や風力発電は低コストとなっていますので、水素火力発電がそれ以下となる事は不可能と言っていいと思います。

全世界の電源別の発電コストの推移
全世界の電源別の発電コストの推移
引用元:https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_GuidebookCorpPPA.pdf

総合しますと、

水素火力発電の経済面は、技術を他国に売る分には市場とニーズがあり有望ですが、電気価格という面では太陽光や風力発電と非常に大きな差があり、結果として水素火力発電を主力とする国の企業の国際競争力の低下や、生活コストの上昇を招く可能性がある。

という事になります。

太陽光や風力発電と比べて水素火力発電が有利な点は、発電量をコントロールする事ができ安定電力である点ですが、電力貯蔵技術の開発も進んでおり、蓄電池だけでなく、余剰のエネルギーを熱エネルギーとして貯蔵する技術や、物質の動きや重力を利用してエネルギーを貯蔵する機械的エネルギー貯蔵といった技術も研究が進んでいます。

今後内燃機関の多くがEVに置き換わると考えれば、蓄電技術のニーズは高まり続けると考えられますので、この分野の技術は進化し続けると思われます。そうなった場合には、太陽光や風力発電に対する水素火力発電のメリットがかなり小さなものになってしまう事が懸念されます。

結論

これまで見てきた内容を総合すると、

アンモニア・水素火力発電の有効性は、アンモニア火力発電に関しては現時点でゼロエミッションとする道筋が見えず、水素火力発電においてはある程度道筋を見通す事ができる。

水素火力発電の有効性は、環境面においては、現在進行中の新技術を全て使い、水素の生成等の国際ルールが確立されればゼロエミッション電力として確立できると考えられる。経済面においては、他国(特にアジア)への技術提供において有望であるものの、電力コストは他の再エネ電源に比べて高くなる可能性があり、使用国の国際競争力低下を招く可能性がある。

となるかと思います。水素火力発電は、ゼロエミッション火力発電を実現する可能性を秘めていますが、コスト面の問題が大きくのしかかってきます。

「発電コストを太陽光・風力発電と同レベルにしなければ、日本を含めた水素火力発電を選択した国々の将来に向けて負担を残してしまう事になる」というのが当ブログのアンモニア・水素火力発電に関する結論です。

まとめ

今回は、前々回のブログ”【COP26】なぜ日本は化石賞を受賞したのか”で不足していた部分を補足したく、アンモニア・水素火力発電に絞って詳細に調査しました。

日本政府の水素火力発電をゼロエミッション化しアジア諸国にも広めていくという考えは、既に大量の火力発電所を持ち今後も建設予定の国々にとっては、日本自身も含め有効なソリューションであると個人的には感じています。

しかし、どうしても引っ掛かってしまうのは電源コストの問題です。ゼロエミ火力発電が達成されても、企業の国際競争力の足かせになってしまってはソリューションとは言えず、経済の衰退を導きかねないので持続可能ではありません。それを自国だけでなくアジア諸国にも提供しようとしている点は、疑問が残る部分です。

この点は、次回ブログで更に深掘りしてみたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。次回はゼロエミ火力発電のコストと日本政府の考えについて調べていきたいと思います。なお、ブログ執筆にあたり参考とした資料は、下記「参考サイト」にリンクを掲載しております。

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参考サイト

石炭火力発電輸出ファクト集2020-環境省
https://www.env.go.jp/earth/石炭火力発電輸出ファクト集2020.pdf (参照 2021-11-30)

Executive summary – World Energy Outlook 2021 – Analysis – IEA
https://www.iea.org/reports/world-energy-outlook-2021/executive-summary (参照 2021-11-30)

N2O分解触媒 – 日揮ユニバーサル株式会社
https://www.n-u.co.jp/jp/products/carbonfree/N2O/ (参照 2021-11-30)

環境省CCUS事業の概要-環境省地球環境局
http://www.env.go.jp/earth/ccs/ccus-kaigi/1-2_MOE_CCUS_gaiyo.pdf (参照 2021-11-30)

CO2を回収して埋める「CCS」、実証試験を経て、いよいよ実現も間近に(後編)|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ccs_tomakomai_2.html (参照 2021-12-01)

貯蔵 | 水素エネルギー技術 | 水素エネルギーナビ
http://hydrogen-navi.jp/technology/storage.html (参照 2021-12-01)

エネルギー基本計画 令和3年10月
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/20211022_01.pdf (参照 2021-12-01)

令和3年11月2日 COP26世界リーダーズ・サミット 岸田総理スピーチ 首相官邸ホームページ
https://www.kantei.go.jp/jp/100_kishida/statement/2021/1102cop26.html (参照 2021-12-01)

今後の水素政策の課題と対応の方向性中間整理(案) 経済産業省 資源エネルギー庁
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/suiso_nenryo/pdf/025_01_00.pdf(参照 2021-12-01)

水素エネルギー 割高なコストの低減が課題だ : 社説 : 読売新聞オンライン
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20210525-OYT1T50261/(参照 2021-12-02)

コーポレートPAA実践ガイドブック 自然エネルギー財団
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_GuidebookCorpPPA.pdf(参照 2021-12-02)

再生可能エネルギーを貯蔵するための4つの技術 | 世界経済フォーラム
https://jp.weforum.org/agenda/2021/05/enerugi-wo-surutameno4tsuno/(参照 2021-12-02)

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 Takahiro
 Fujii

気候変動や海洋プラスチック問題に危機感を感じSDGsを知りました。

この度晴れてSDGs検定に合格できたので、このサイトを立ち上げる事といたしました。本業はシステムエンジニアです。

SDGsの内容や個人で取り組めるSDGSについて幅広くお伝えしていきたいと思っています。

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